コストを抑えつつ品質を維持するという難題
全ての通信事業者にとって通信品質の維持・向上は最も取り組むべき課題かと思います。インターネットトラフィックが爆発的に増加(※1)している昨今は「コストを抑える」ことがこの課題に加わったため、多くの方が頭を抱えていますが、その主たる理由は収入の増加ペースをコストの増加が上回っているためだと推察します。
※1 [総務省|報道資料|我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計・試算]
当然ながら通信品質を維持するにはトラフィックが増加した分の設備増強が必要になりますが、主な増加理由がコンテンツのリッチ化であり、必ずしも加入者が増加しているわけではなく、かといってサービス料金に転嫁することが困難であるとすると、この課題は非常に複雑なものとなります。
QoE(ユーザ体感)の向上という考え方
一方で、限られた通信帯域を有効に活用する考え方として、昨今ではQoEの向上技術が注目されています。
通常、通信品質と言えば遅延や損失、ジッタといったパラメータを用い、一律の尺度で分析していたと思います。
ただ実際はゲーム、動画、SNSなど、アプリケーションの特性によって通信に求める品質は異なるため、それぞれのアプリケーションをストレスなく利用できる通信品質を維持するという考え方が求められます。
そのための分析・制御技術を当社ではAppQoE技術と呼んでおり、2024年10月時点で約4,000種類のアプリケーションを分析・制御することが可能です。また、SNSなど1つのアプリ内で複数の機能(動画、音声、テキストメッセージなど)を提供している場合、各機能毎に識別することが可能です。
AppQoE技術の導入に必要なこと
基本的に以下の3要素があり、何れも欠かすことができません。
- 可視化
- 分析
- 制御
通信帯域の利用状況をモニタリングします。アプリケーションによって通信に求める品質が異なるため、全体の利用状況だけでなく、その中でもゲームや動画、SNS等がどれだけ使われているのか、ユーザがストレスなく使える状態か、保存された統計データを用いて可視化します。定期的にレポートを生成したり、ダッシュボードに表示するなど様々な方法があります。
可視化できるのは現在もしくは過去の情報です。統計データを将来の運用に活かすには分析が必要です。アプリケーション毎の傾向を追うことで将来必要となる帯域や時期の予測ができます。また、必要以上に帯域を消費している通信が無いかチェックすることも可能ですので、ユーザがストレスなく安心してサービスを利用できるよう、効率よく公平かつ適切に帯域を分配するための施策を検討します。
可視化・分析した情報に基づいて帯域を制御します。アプリケーションが求める品質に合わせた帯域の分配や、ヘビーユーザーによる帯域の占有を防ぐ公平制御等を行います。
最小限のコストで導入するには
既に制御の要件が整理できていて、効果が出ることが明らかな場合を除いて、何の予測もなく制御ありきでこういった技術を導入することには疑問があります。
通常は可視化→分析→制御の順で段階的に進めることで導入コストを最小限にすることが可能と考えます。
当然ですが、全トラフィックを可視化しようとすると、それを処理可能な設備を用意しなければなりません。可視化・分析で重要なのは傾向を把握することであり、そのために全トラフィックを可視化する必要は無いと考えます。
例えば100Gbpsの帯域に対して10Gbpsなど、一定の割合でサンプリングするだけで傾向は十分に把握できます。
ただし、サンプリングの方法には注意が必要です。アプリケーション毎の通信を可視化するにはUplinkとDownlinkがセットになるようフロー単位でパケットを抽出する必要があります。これにはパケットブローカー(PBR)が必要です。これは**CUBRO社のPacketmasterシリーズ(EXA48200 等)**を用いることで実現できます。
フロー識別が可能なパケットブローカーを用いない場合と用いる場合の違いを見てみましょう。
フロー識別が可能なパケットブローカーを用いる場合、正しくアプリケーションが可視化できていることが分かると思います。このように、トラフィックの傾向を把握するにはフロー単位で情報を取得することが必須です。
導入後の運用が肝心
特にAppQoE技術は、導入後も可視化→分析→制御を絶えず繰り返すことが重要です。インターネットトラフィックは日々刻々とトレンドが変化します。古い制御ポリシーを放置していると逆効果になる場合もあるため、日々の運用が非常に重要です。
当社は長きにわたり様々な通信事業者の運用をご支援しています。AppQoE技術に精通したエンジニアが多く在籍しており、ナレッジも豊富です。検討から導入、運用までフルサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。