今回は、過去の記事Sandvine ActiveLogicによる通信品質のニアリアルタイムなモニタリングの続編です。
前回の記事では、Sandvine社製ActiveLogicを用いてQoS(Quality of Service)のモニタリングに関するデモをご紹介し、QoE(Quality of Experience)測定へ応用する方法について軽く言及しましたが、本記事ではこのQoE測定の実装についてもう少し掘り下げたいと思います。
まだ前回の記事↓をご覧になっていない方は是非一読ください。
Sandvine ActiveLogicによる通信品質のニアリアルタイムなモニタリング目次 非表示
QoEとは
前回の記事では、QoEはQuality of Experienceの略であり人間の体感に基づく指標である、と説明しました。
QoEはQoSと比べると比較的新しい概念であり、通信業界で用いられるようになったのは2000年代に入ってからのことだと記憶しています。
QoSは「スループットが何Mbps以上出ている」、「RTTが何ms未満である」、といった具体的でネットワーク機器でも比較的測定しやすい指標です。
これに対し、QoEは「ECサイトの商品画像が速やかに表示される」「Web会議で映像や音声の遅延が少ない」といった利用者側に寄った評価になるため、測定が困難だと思われていたり、中には人間の作業者が実際にサービスを利用したうえで採点するような手法を試みた方もいると聞きます。
ネットワークのQoE可視化を実装する上でのアイディア
QoEの定義を考えると作業者による評価が適切なように見えるのですが、以下の問題点があります。
- 24時間365日休みなく測定することが難しい、コストがかかる
- 複数名で交代しながら測定するとしても、個人の主観が含まれてしまい評価にブレがでる
1. ネットワークのQoE評価にQoS測定の結果を使う
つい今しがた「QoSとQoEは別の評価指標だ」と見たばかりだ、いきなり何を言い出すのか?と不安にさせてしまったでしょうか。
QoSとQoEは別の評価指標ではあるのですが無関係ではありません。
QoSの切り口で何かしら品質が悪化した場合、QoEへどのような悪影響が出るのか類推が可能なケースは多々あります。
先の例で説明すると、スループットが悪化すればWebサイトの画像の読み込みは遅くなるであろう、といった考え方です。
では、項番1の考え方に基づいて、ユーザあたりのスループットが5Mbpsを下回ったら品質が悪化している状態、と閾値を仮置きしてみます。
しかしこれはよく考えずとも適切ではないことは明らかです。Youtubeで1080pサイズ以上の動画を見ているユーザにとっては5Mbpsでは足りません。
どのようなサービスをどのような使い方をするかによってネットワークに求められる要件は異なります。
2. サービスごとに閾値を定義する
サービス提供事業者側から、サービスを快適に使う上での要件として目標値が設定されているケースもあるので、こういった情報を参考にサービスごとに閾値を定義していきます。
3. カテゴリごとに閾値を丸める
Sandvine ActiveLogicは4000種を超えるプロトコルやサービスの識別が可能ですが、項番2に基づいてすべてのサービスに対して閾値を定義することも現実的ではありません。
現実的な落としどころとしては、サービスのネットワーク的な特性を基にカテゴライズを行い、カテゴリごとに閾値を定義する手法が考えられます。
カテゴリ | 分類するサービス、 プロトコル | 目標スループット | 目標ジッタ | 目標RTT | 目標ロス率 |
---|---|---|---|---|---|
Web会議 | MS Teams、Zoom、 etc… | >5Mbps | <30ms | <500ms | <10% |
オンライン対戦 ゲーム | Apex legends、 Valolant、etc… | >10Mbps | <30ms | <50ms | <3% |
動画配信 | Youtube、Netflix、 etc… | >30Mbps | (評価しない) | (評価しない) | (評価しない) |
バルク通信 | WindowsUpdate、 AppStore、etc… | >10Mbps | (評価しない) | (評価しない) | (評価しない) |
: | : | : | : | : | : |
その他Webサイト | 上記以外 | >5Mbps | (評価しない) | <500ms | (評価しない) |
※本表の値は検証用の参考値であり、実際に運用する場合はカテゴリの分類やネットワークの規模にあわせて見直す必要があります。
※ジッタ、RTT、ロスの観測が可能なプロトコル、サービスは限定されます。
この例では、閾値が1つしか定義されておらず良/不良の判断しかできませんが、いくつかのレベルに分けて閾値定義することで段階付けした評価も可能です。
まとめ
DPIによるプロトコル、サービス識別とQoS測定を応用することで、簡易的ではありますがQoEの可視化も可能です。
QoEはユーザの通信サービスへの評価に直結する部分であるので可視化し、管理することでさらなるサービス品質の維持・向上へと繋げられます。